趣味は引用
青山南『眺めたり触ったり』(1997)
眺めたり触ったり
早川書房

「ロスト・オン・ザ・ネット」の前にも、青山南には『この話、したっけ?』(研究社)という労作があったのを思い出した。これは面白いつくりの本で、見開きの右ページ(縦書き)には新聞・雑誌から集めた情報をもとにした昔のコラムがあり、左ページ(横書き)には最近ネットから見つけてきたネタを載せて、右の文章を補足している。

 ネット以前の時代からこの人は、洋書屋での立ち読みや地道なスクラップで仕入れた情報を大量に、しかも何気ないふうを装って提供してくれた(20年以上前、村上春樹がレイモンド・カーヴァーの翻訳を始めた頃に資料を貸したのはこの人らしい。面識はないみたいだが)。
 この『眺めたり触ったり』は、そんな青山南の軽いエッセイを集めたもので、内容は(1)読書について思うこと (2)他人が読書について書いたエピソードの引用――いや、分ける必要もなかった。本を読むことと、本そのものについて。それに尽きる。
《かなりのスピードで読むなら、たいていの小説はそこそこおもしろい。ああ、おもしろかった、という感想が、まあ、もてる。
 あれはどうしてだ? 時間もかからなかったし、まあいいか、と評価が甘くなるのか?》
 結論は特にない。こういう思いつきと、本にまつわる思い出が並んでいる。サブタイトルは“The Feel of Reading”。
 たとえば、本に線を引くことについて。朗読する楽しみ。速読にあこがれ、いちど読み始めた本を途中で放棄するのにためらう。あるいは、本屋でジッド『贋金つかい』と出遭った、高校時代の雨の日のこと。ヘンリー・ミラーの原書を持ち歩いていた女性。日本語ではなくアルファベットで書かれたものの場合は、黙読するときでも喉が乾くという眉唾な説も紹介される。
 どれも1、2ページの長さで、つながっているようないないような、微妙な組み立てで1冊になっている。そういう本なので目次はないが、登場した作家・書名の索引がついているのは親切だ(そして、索引なるものについて書かれた文章もあった)。
 一息に読み通してもいいし、どこかで立ち止まって、自分の場合はどうかと考えてみるのも楽しい。途中から読んでも、飛ばしても全然構わない。「あああまったくだ」と言いたくなる箇所がいくつもあった。
《バスの一人掛けの席に座っての読書、あれは最高だ。その席が、運転手のすぐうしろの、つまり最前列の席だったりしたら、うん、もう、この世の天国だよ。バスがきて、とんとんと乗りこんでって、その席があいているのを発見したときの喜び! あれにかわるものはない。》

…続き

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック