趣味は引用
04/10/17
 徹夜して明け方になったあたりでなぜか新聞が読みたくなり、コンビニで朝日新聞を買ってくると日曜日だから読書欄があって岸本佐知子が「冬ソナ」本に邪悪な書評をつけているのを発見したがそれは本題ではなく、同じページの「自作再訪」なるコーナーで川上弘美がデビュー作「神様」のことを書いていたのだった。
 1993~94年にパソコン通信上で行われた「パスカル短篇文学新人賞」でもって選考委員を瞠目させたこの短篇について、「川上弘美はこれを3時間で書いたらしいよ」「いや2時間なんだって」と伝説みたいな噂がまことしやかに語られていたのだが、今回、このエッセイで本人は書いている。
一時間ほどで書きあげた。
 あはは。いずれ伝説である。
《夕方になる前、ちょうど午後四時ごろだったような気がする。買物から帰って、冷蔵庫に牛乳や野菜や肉をしまい、洗濯物をとりこみ、さてあと少ししたら夕方の砂場遊びに子供たちを連れて行かなきゃな、と思っていた。
 そうしたら、急にやってきたのだ。書かなきゃ。という感じが。
 あわてて古いノートをひっぱり出した。(…)最初の方のページをあせってめくり、まだ何も書いていないところを出す。鉛筆を固く握り、少しだけ考える。
 「くまにさそわれて散歩に出る」という一行を、書きつける。
 あ、できた、と思った。
 (…)砂場に行くことも忘れ、昔の理科のノートに、先の丸くなった鉛筆でどんどん書いていった。まだたたんでいない洗濯ものが散らばった横、リビングのじゅうたんの上に正座した膝にノートを置いて、書いた。子供二人が、かーさんかーさんと言いながら背中にのぼってきたりおなかの方に入ってきたりするので、少しずつ移動しながら、それでも書いた。
 一時間ほどで書きあげた。そろそろ夕焼けが始まっていて、さっき静かにさせるために子供たちに与えたポン菓子(つぶつぶが細かいのでなかなか食べ終わらなくて、時間がかせげる)が床に何粒かこぼれていて、頭に血がのぼっているので少しふらふらしていて、ものすごくへんな気持ちだった。
 じっと窓の外を見ると、夕焼けはどんどん濃くなっていった。赤と、どす黒いのが混じったような色で、ちっともきれいじゃなかった。(…)》

「神様」はいまでは短篇集『神様』に入っており、選考会の様子は『パスカルへの道』で読める。どちらも中公文庫。


神様
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