2004/04/06

その61 ― ピンチョン Lot 49

The Crying of Lot 49 (Perennial Classics)

前回…] [目次


 エディパとメツガーは、『急使の悲劇』という演劇を観に行く。

 二人の本来の目的はピアス・インヴェラリティの遺産を調べて整理することのはずなのに、なんでそんなことをしているのかというと、その前日に湖へ遊びに出かけたとき「湖に沈められた死体・骨」という話を聞き(from ディ・プレッソ)、それがこの劇の内容と似ているという情報を得て(from ザ・パラノイド)、エディパの好奇心が刺激されたからだった。
 湖の骨がピアスの事業と関係があった以上、エディパは彼の遺産に関わりがありそうなものは何でも調べる熱意をもっているとも言えるわけだが、こんなにもやる気に満ちているのは、遺産の執行人として責任感が強いからというよりも、性格的に彼女が「何事によらず、つながりがあるならそれを知りたい」と欲している人間だからだろう。これはこれで熱意であるにせよ、遺産執行人としてはだんだんルートを外れてきている。
(メツガーは弁護士なんだから遺産調査についてエディパより責任があるはずで、だからこそ観劇に乗り気ではない。こっちのほうがまともなのである)

『急使の悲劇』は、サン・ナルシソで活動する〈タンク劇団〉なるグループによって公演中である。オリジナルの作者はリチャード・ウォーフィンガーというステュアート朝時代のイギリス人。ステュアート朝は1603年に始まり、ジェイムズ1世からチャールズ1世と続いて1642年に清教徒革命を引き起こす。この劇作家はシェイクスピア(1564~1616)とだいたい同時代か、少しあとに活動したことになる。

 もともとが小さな劇場なのに、客席は閑散としていた。しかしエディパの見るところ、役者の衣装も照明も凝っているし、ウォーフィンガーの想像力は、執筆当時にはまだ起こっていない革命の前兆となる禍々しい雰囲気を知らずとはらんでいるかのようだった、という。
Oedipa found herself after five minutes sucked utterly into the landscape of evil Richard Wharfinger had fashioned for his 17th-century audiences […] (p49)

《エディパは開演五分後には、邪悪なリチャード・ウォーフィンガーが十七世紀の観客のために作りあげた風景の中に完全に吸いこまれていた。》p78/p87

 そんなわけで、これから数回はエディパと共に『急使の悲劇』の筋を見ていくことになる。

…続き

コメント

非公開コメント