2010/10/26

つぶやいて読む『逆光』


 10月のあたまから3週間くらいかかって、トマス・ピンチョンの『逆光』(2006)を読んでいました。新潮社「トマス・ピンチョン全小説」の第二弾。
 読んでいるあいだじゅう、ツイッターでえんえんつぶやき続けていた感想をここにまとめてみました。
上巻: その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7

下巻: その8 その9 その10 その11 その12 その13
      その14 その15 その16

びっくりするほど、内容の話をしていません。
紹介も考察も特になく、1回が140字の制限上、引用も控えめで(趣味なのに)、じゃあこれは何かといったら、つまり、日記でした。

★ なお、『逆光』を読んだ/読んでいる方には、訳者である木原善彦さんがツイッター上でおこなわれている“注釈”が無類に面白いはずです。
 1ページに1注釈で、現在進行形。 →こちら

『逆光』を読んでいなくても、この注釈を面白いと感じる方は、きっと『逆光』に(ピンチョン読書に)向いていると思います。


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2010/10/24

その16 /10月24日(日)  下巻P797-845


逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説) 逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ とうとう読み終えた。いやあ、うん。いやあ。

■ 最初は「すごい厚いけど、10日もあれば読めるだろ(おれピンチョン好きだし!)」と考えていたものの、実際には20日以上かかったのでびっくり。そして、もっとゆっくり読んだほうがよかったのかもと思ってる。

■ 読後感はきのう第四部を読み終えたときとあまり変わらないので(うわあ、と声が洩れる)、やはり長篇小説は、終わり方より途中途中の積み重ねがその姿を決めると思うことしきり。本作のような、一本のストーリーに収めない小説ではなおさらだ。

■ 上下巻で計1686ページは文句なく長篇だけど、詰め込まれてる材料は3000ページ分くらいあった印象。圧縮された大量のエピソードがあっちこっちで花開く様子が、最後半に比喩でもって俯瞰的に語られていた(下p792)。がまんできずに自分で言っちゃう感じがして、よかった。

■ 読みながら人名と出来事をメモしてただけなのに、3週間やってたら、ノートを1冊(30枚の薄いやつだけど)書き潰してしまった。貧乏性に発する、しかし贅沢な体験であると強弁したい。上巻・下巻に加えてもう1冊できたかのような。それは言い過ぎだ

■ せっかくなんで(貧乏性)、ノートから拾ってみる。
「何かの修業→超能力」 「名はスキップ、親友になる」 「料理の失敗を熱力学的にフォロー」 「13才で空中ブランコ乗りと結婚」 「町の基幹産業は魂の処理」 「容疑者22人!秘密組織!」 「セフィロトの入れ墨してるキリスト教徒」 「ビクトリア女王の本物は地下世界にいるのでは説」 「超自然的な白馬乗りこなす」 「墓参りで幽霊と話しちゃう」 「路上演劇、誘拐される(←白人奴隷シミュレーション)」 「2、3人を分離して元に戻せてない」 「ラクダ捕獲計画」 「雪崩は鉱山所有者協会だろう」 「移動サロンで温泉めぐり」 「2人、なぜか捕まる」 「オウムに説教される(複屈折・方解石)」 「二次元(地上)→三次元(空)、今度は四次元へ」 「結婚狂の治療で遅れた」 「だれかが、ついにシャンバラを発見したの?」 「時計は一方通行の時間を称揚する装置」 「のちのグルーチョ・マルクスである」 「巡回サーカスの跡地にできた集落」 「100着注文した男」 「まだ終わってないと〈運命〉が告げるので」 「トリエステ到着、“ここはどこ?”」 「〈侵入者〉に会ったという」 「〈時間〉の流れの中に生じた特異点が西フランドル」 「x+iyの虚数的二十面体」 「1660年頃、並像鏡で島から脱出」 「設計者エットーレ・サナンゾーロ」 「その場にとどまろうとする絵の具の慣性を乗り越える」 「モンドラゴン半自動小銃(タンピコ→チアパス)」 「氷州石:地球の速度を結晶化したもの」 「“中国の謎”をパノラマ投影する機械」 「アメリカの歴史はみんな宗教戦争」 「1人で声と伴奏できる(ホーメイの一種)、同時に二つになる方法」 「against the dayって書いてある! 」 「大聖堂で空中浮遊 改心?」 「阻止線=禁止線」 「“光”の暗号名」

 もうやめよう。

■ なにしろこれだけ長いのに、終わりそうになったらまだ終わらないでほしいと思ったくらいなので、しばらく『逆光』から出てこれそうにない。
 というのも、第四部から五部への繋ぎがなあ・・・いや、なんでもない。あれはずるいよ。いやいや、なんでもない。

■ 気に入った人物でいま思い浮かぶのは、リネット・ドーズと、「自分をベルリンの名物菓子だと信じてる男」(実際、焼きたての匂いがするという!)。
 そんな与太話の数かずを通じて、読者が勝手に想像することも作中に組み入れちゃっていいよ、という理路を開いてある小説・・・!!

■ キリがないんで(いまさら)ここで終わり。ひとまず、私は読んだ
 この上下巻を私にくれた友達には、ほんとありがとうでした。

(おわり)

atd2
2010/10/23

その15 /10月23日(土)  下巻P673-795

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

《それに触るたびに――軽く触っただけでも――声のようなものが聞こえるようになった。
「ここで何をやっているんだ?」とそれは言っているようだった。
「そんなことを聞くために家を離れてこんな遠いところまで来たのかい」》下pp675-6

《一人一人が空を飛ぶために必要な装置を黒い子ヤギ革とニッケル板で体に装着し、おでこには制御盤を見るための小さな電灯を着けた真面目な顔の少女たちは、再集結し、近づいてきた夜に向かって羽ばたいていった。》下p745

■ 下巻のp795まで読んで、第四部「逆光」が終わった。
 後半になるともう、「おいおいおい・・・!」と突っ込みたくなる展開が雪崩を打つ。興奮というより、笑って、それから感無量。
 残る最後の第五部は40ページ足らず。ここまで来ました。

■ 小説が進むにつれ増えたのは、「お、こいつ新キャラだ」とメモ→あとになって、他のことを確認するのにノートをパラパラ→さっきの人名を、ずっと前の別の場面でメモしてたのに目がとまる、というパターン。
 目がとまってもいいのにとまらなかった例も、きっと多くあったにちがいない。

■ これほど分量があり、複数の話が並行して、無数の人物が登場するんだから、「あの人間がここにも出てきた」的再登場は、気付けばうれしいけど気付かなくてもOK(、なので説明してもネタバレにあらず)と私は考えてきたんだけど、修正した方がいいかもしれない。面白いんだもの。

■ 最たる例。上巻p492で別れた二人が、千ページ以上を経過した下巻p683で、間接的・かつ一方的な“再会”を果たす(たぶん果たしてる)場面の奇妙な感激は、小説、それもこういう変な小説でしか味わえない感激だと思った。ひとことで言えば「なんかすげえ・・・」なんだけど。

■ そこから広げて、たとえば、空電の音(下p622)から『V.』を、切手談義(下p668)から『競売』を、下p738の「窓の外」から『重力の虹』を思い出すのにも、少しは意味がある気がする。でもこれは、「だから過去作読んどくべき」ではないので誤解なきよう。読者サービス?

■ 今作、「!」と思ったらあっちこっち読み返し、人物はなるべく見知っておくべきなのかなー(って、ものすごく普通のことだな)。
 自分的には下p679あたりから、何だろう、ある程度片付いたトランプの神経衰弱で、パパパパッとペアができていくかのような展開になるのがカタルシス。

■ ・・・そのカタルシスは、見方によってはもっと前から始まっていたとも言える。で、与太話につぐ与太話、たまにメロドラマ、演説、再び与太話、みたいな長篇を、第四部ラストでまたも与太話(ひみつ道具)で包み込もうとする姿勢と、包み切れなさが、「『逆光』らしさ」なのかも。

■ 何言ってるかさっぱりでしょう。私もです・・・って、まだ読み終えていないんだった。これからどうなるか、わからないんだけど知っている/知っているんだけどわからない。ああ、緊張してきたぞ・・・!
《カメラのためにほほ笑んでいるばかりでなく、声に出して何かを笑っていた――彼女が何に笑っていたのか、彼は思い出そうとしたが、思い出せなかった。ひょっとすると彼が彼女めがけて投げた雪玉が、目に見えない空中にとどまっていたのかもしれない。》下p794

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2010/10/21

その14 /10月21日(木)  下巻P619-672

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ 下p672まで読んだ。
《シプリアンは恐る恐る赤ん坊を受け取った。その軽さは彼の手に容易に収まり、彼の足の方が床から浮き上がりそうなほどだった。しかしそれだけではなく、彼は同じことを以前に何度も経験したことがあるような感覚を覚えた。》下p621
 これがほんとの新登場。

■ ページの上では確実に終わりに近づいているはずなので、いまさら○○が××して△△が□□になる、とか書くのはよした方がいいと思う。
 そう意図しなくても、何がどうなってるか“大筋”をまとめるには、って、イヤイヤ、こういうことを書くのもよした方がいいんだと思う。

■ 視界に収まらないほど大きなことじゃなく、たとえば下p654で懐かしい人物が現れ(まさか二度出るとは)、
《血族による復讐の標的となった人々が、自分の家に軟禁された状態に耐えられなくなり、一緒に村規模の住居を作ることにしたのだ》
というところに、下p161を重ねて笑ったり、
《リーフはかつて、北米分水嶺の西で最もツキのない釣り人として有名だったが、》下p656

この期におよんでそんな設定を出されても ――いや、前にもあったっけ? と探しに行って帰れなくなるなどしているが、それでも、今週中に読み終わると思う。・・・某所には到着するんだろうか。

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2010/10/20

その13 /10月20日(水)  下巻P513-619

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次
《言葉を超えたものに対するのろまで鉄面皮な免疫性の中で、彼は、自分の魂を救える可能性が万が一にもあるのかどうかを考え始めなければ――そして理解したことを記憶しなければ――ならなかった。》下p587

■ 思うように時間が取れずスローペースになってるけど、それでも、下p619まで来たからどきどきしてきた。
 人物再登場が甚だしく、机の上は読んでる下巻・自分のノートに加え、上巻も開きっぱなし。あっちこっちを楽しくのろのろ、森の中で迷っている。よくある比喩だがそんな感じ。

■ それにしても、この広がり方は何だろう。一応「主要登場人物」はいる。その人たちの話が脱線してく、というよりも、もっと話の絞られた「不在の本篇」があって、そこから派生した外伝・もしくは二次創作に類するような話も全部ひっくるめて「いまここにある本篇」をなしている、ような。

■ 「不在の本篇」を想定しちゃうのは、「それだったらもっと読みやすいのに」という気持のあらわれか。でも実際の本篇はこの上下巻なんだから、こっちに体を合わせるよ、もちろん。
(じじつ、この3日くらいでだいぶ慣れてきた。今の状態で最初から読み直すのがより理想に近いと思われる)

《それから彼らは列車に乗り、転轍機が一つまた一つと切り替えられた。それはまるで、自分がどれだけだまされたがっているか分からずにいる観客が、奇術師の誘導によって思い通りのカードを引かされているかのようだった。》下p609

 奇術師も、比喩だけでなくずいぶん出てきたなあ。

■ ピンチョン描くところの「魅力的な女性」は、たいてい放縦になっちゃう(性的な意味で)のが謎なんだが、放縦具合が図式的なためあまりエロくない。ここではアレとコレとソレを取り入れなくちゃ→ゆえにそうしてる、みたいな。それでいいのか。そして、これは女性だけの話じゃなかった。

■ 今日読んだなかでは、2度めのインディアンの遺跡ばなしが気になった。夢の中で出会った物語の中で、逃走中の共同体が集団的に夢見た都市。
 あと、いかにも重要アイテムな、「そこに描かれていることはすべて別の何かを表している地図」。明日も楽しそう。

■ 最後、スリープコート教授のバルカン半島・秘密の音楽探索の旅。
《彼が聞き分けられたのは若者だけが歌う権利を持った言葉だったので、彼は必然的に自身の過ぎ去った青春時代――気づかないうちに過ぎ去ってしまった青春時代――を思い出さずにはいられなかった。》下p614

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2010/10/18

その12 /10月18日(月)  下巻P376-513

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

《「アメリカ政府はどうなんだ?連中の考えは?」
「私たちはもはや政府のために働いてはいない」
「すごいじゃないか!じゃあ今は誰のために仕事を?アメリカの大企業か?」
「自分たちのために」[…]
「おまえさんたち自身が――気球少年よ――アメリカの大企業じゃないのか?」》下p380

■ 下p513まで読んだ。
「ピンチョン、書きたいことを、書きたいだけ書いている!」というのが、『逆光』読んでていちばん思うことだなあ。
 なぜいまそのエピソードを? しかもこんなに長く? とか思ってても、読んでいくうちに(書かれていくうちに)時は過ぎる。小説の中でも外でも。

■ 下p400あたりで作中時間は1908年10月になり、AがBを併合すると、それまでと毛色の違う話がのびのびと引き出されてきたり。それで思わず世界史の参考書を探してみたり。ここでネットに手を出すと本に戻って来れないが、いっそ戻れないくらいさまよってみるのもありか。

■ しかもそのエピソードが、以降の本筋に大きく絡むことはたぶんないと半ば確信されもする。そこでどうするか。「読み飛ばす」のではなく、「どれが本筋か、みたいな読み方をなるべく忘れるようにする」。
 これに較べると『V.』だって緊密な構成を持った作品に思えてくるよ(実際そうか)。

■ 今日読んだ部分はそんな感じなので、何人もの人物が顔を合わせたり関係を持ったりしても、それでどうまとまっていくのか(そもそもまとまるのか)、かえって茫洋とわからなくなっていく印象。
 このままで終わったらさすがに寂しい。でもまだ300ページ以上あるからどうにかなるだろう。
《まだ敷設されていないこの概念的な鉄道が不可視のまま、物理的存在の世界に入ることを待ち受けている外交的要素として、雪と峠と谷とをまたがるようにそこに存在していた。
 シプリアンとダニロはできる限りその経路をたどった。》下p453

 ちょっとしびれた。ない線路に沿って歩く!

■ そうそう、さっきamazonに行ったら、こんなリストがあるのを発見。

 →ピンチョン『逆光』を読むための参考書

 いまならどれも楽しそうだなあ。“シャンバラ案内”ってコメントに笑った。

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2010/10/15

その11 /10月15日(金)  下巻P290-375

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

《書籍商がうなずいた。「それは一五五七年にリンプン・ンガワン・ジグダグが書いた『リグパ・ジンパイ・フォニャ』、すなわち、知恵を運ぶ使者というものです」》下p337

 え。もういちど言ってもらえますか。

■ 下p375まで読んだ。なかなか進まないが、小説内の距離移動は相当だった。
 青年キットの世界大紀行。アメリカの鉱山町からイエールを経て大西洋を渡り、今日読んだとこではベニスからえんえんユーラシア大陸を東進、バイカル湖を見ていた。なぜそこまで。やや呆れつつも、ここをくぐる瞬間が大変(下p343)

■ その中央アジア行のなか、下p349で名前の出てくる呪術師が、上p218で既出だったことに、たまたま気が付いた。さらにその同じ上p218に出てくる医者も、下p214に再登場していたんだった。気付いてない再登場もたくさんあるんだろうなー。

■ ピンチョンの長篇は、伏線を後半でみんな回収してきれいにまとめ、ってつくりだったことはないはずなので、脇役の再登場は見過ごしてもいいと考えてる。車窓を飛び去っていく風景を眺めるみたいにその都度その都度楽しんでいれば、「これ前も見た!」とはわからなくてもいいんだと。

■ なので、二度出てくる人間を別個に捉えてても問題ないはずと思ってる。そのうえで、さっき書いた呪術師も医者も、作中で「分身」に関係しているのが面白かった。
 だって、同一人物を別々に捉えるのって、まるで読者が登場人物を「分身させてる」みたいだから。そういう話では・・・ないか。

■ 派手な事件も起きてたが、派手じゃない引用を。
《普段なら人の体に触れることがめったにないタンクレディが、ダリーの言葉に感謝するように彼女の肩を強くつかんだ。キットはそれを見て彼女の顔に目をやった。彼女は大きく視線をそらし、目に見えない日傘をくるくると回した。》下p294

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2010/10/14

その10 /10月14日(木)  下巻P251-290

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ なんと、この小説をもう2週間読んでいることになる。まじでか。
《一瞬、彼らは見つめ合った。二人は互いの出現が相手の救いになったことが分かっていたようだった。「四次元の中なら[…] 時間差なんて問題じゃなかったでしょうけど」》下p257

 私も四次元の中に行きたい。

■ これまでにも何度か、別個のライン上にいた登場人物が繋がってきた、と書いたが、下p251あたりからいよいよ本当に近づいてきた。
 いっぽう、エピソードはより断片的になってる印象で、彼ら・彼女らに何が起きているのかよく見えない。
 すこし難しいコーナーを回っている感じか。私が。

■ しかし〈不都号〉はどうなった。ずいぶん姿を見ていない。
 でも、「○○はどうなった」式の質問はそれこそいくらでもできる。上p226以降の事件はどうなった(『ヴァインランド』のゴジラ状態?)。
 関係ないけど、「他人のことに頸部挿入するな」という台詞(下p278)が好き。

■ 背景としてヨーロッパはきな臭さを増し、構成として時間に関係する大ネタ(?)がチラチラ。かと思えば、はっきり人間の形をとる黒幕もいたりする。
 重心があちこちにあるみたいで落ち着かない。バランス、これから多少はとるのかなあ、で、今日は下p290まで。来週までかかりそう。

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2010/10/13

その9 /10月13日(水)  下巻P159-250

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

《彼女は登山スーツ姿のままクルミ材でできたホテルのバーにもたれかかって、ペプフリ=スパッツォレッタの判読不能な紋章が刻まれたボヘミアングラスのずっしりしたタンブラーから年代物のスコッチウィスキーを飲み、にこやかに、しかし彼女独自の忍耐レベルで兄弟を見据えた。》下p189

■ 第三部後半から慌ただしく人物再登場が増える。ノートをあっちこっちめくり返し、それから上巻を拾い読みしたりしていると、脳内で快楽物質がジュワッと分泌される感。
 これぞ長篇小説の楽しみ、とか言ってるのでなかなか進まない(あと、キモい)。まだ下p250まで。

■ でも、べつに、細かくメモしていかないと読めない本ではないと思う(そんな小説はない、と考える)。
 むしろ人名さえメモせずに読んだときに、この小説の内部がどんなふうに見えるかに興味津々。だってそれは、メモしちゃってる私からはもう見ることのできない光景なので。(逆は可能)

■ 下p227からの第四部は、いよいよ「逆光」と題されている! そこまでの山盛りエピソードはぜんぜん消化できていないが、消化しないまま面白がっている(アルプス地下の未確認生物とか)。
 ちなみに第三部のタイトルは「分身」で、あ、分身!? と、いま改めてビビることしきり。

■ 下p180前後でばらまかれるエロ小話の類は、そのあとの父子エピソードを描くうえでの照れ隠しに見えた。なにせそっちも、霊媒まで介したややこしい構図になっている。
 ピンチョン、しょうもない下ネタだけでなく交霊会も好きだなあ(『重力の虹』の場合よりだいぶ明るいと思った)。
《「私たちは皆インチキという元素の中を飛ぶの」と彼女は言った。「そのおかげで私たちは空高く舞い上がれる。一度や二度インチキを使ったことがないっていう霊媒はいないわ」》下p190

 ・・・礎石が四次元立方体になってる〈怪物博物館〉なんてのもあった。もういくらでもあった。

《キットは再び眠りに落ち、敵の心臓に向かって飛ぶ弾丸を夢に見た。何年も、何マイルも旅をした弾丸が時々何かに当たり、角度を変えて跳躍し、まるで行くべき場所を知っているかのように飛び続けるのだ。》
 ここまでならとてもカッコいい。が、そのあと、
《四次元時空間におけるこのジグザグ運動は五次元におけるベクトルとして表現できるだろうと彼は思った。それが存在するのがn次元だとすれば、それを見、末端を結んで単一の合成ベクトルを作るには一次元上のn+1次元が必要だ。》下p197
と続く。「彼」ことキット君は、元イエールのベクトル主義者。

■ 下p243うしろから3行めにたいへんなことが書かれている気が一瞬した。でも、これほどの長さがある小説をひっくり返すカナメの一文、なんてものはないことも知っている。
 まとまってもまとまらなくても、ぜんぶ読んでこその小説。よくわからないことを書いている。

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2010/10/11

その8 /10月11日(月)  下巻P9-158

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ 下巻p158まで。もっと読む時間がほしい・・・!
 ところで、上巻の(おそらく下巻も)奥付のページにあるロゴは、「AD」ではなく「ATD」であるべきじゃないだろうか。背表紙は(先行のチラシだと「AD」となってたけど、現物では)「ATD」なわけだし。

■ 人物関係はとんとん拍子に整理が進み、しかし、話がまとまってきたとは私には言えない。とにかく、並像鏡の複屈折と〈時間〉の外とリーマン幾何学でもって(ひとつもわからない)あれもこれも複数化だ。
 そっちのほうで収束させるのかなー、って、そっちがどっちで何がどうなるのやら。

■ 下p28「ピサ大学のスベーリ教授」は、上p383「ピサ大学のズヴェリ教授」とは別の人なんだろうか。役割は似てる。表記が違うんだとしたら、何だろう、訛りの再現とか? あるいは、そこに出てくるひみつ道具の実演なの? 名前が変わっちゃったら機能が違ってしまう気もするから、やっぱ別人?

■ それにしても、上p582で消えた人物が下p140で出てきた!なんてのは、ふつうに気付けることなのか。私にはメモなしでは無理だった。
 でも、だったら気付かなくていい、とは思い切れずにいる。ピンチョン小説の読み方がどうこうというより、忘れちゃったら登場人物に悪い気がして。

■ 印象的だったのは、いろんなものがダダ漏れになってるベニスの町。しかもそこでの話に、ペンテコステの「炎の舌」が出てきたので腰を抜かした。
 聖書由来のこのエピソードは、『競売』でとても大事だったというか、大事に見えた。(いちおう、→これ
 ・・・ここからはっきり言えるのは、ピンチョンがこの『逆光』でもって過去作を織り直している、とか、集大成をもくろんでいる、とかではなくて(そんな高い視点にはとても立てません)、ああ、よっぽど好きなんだな「炎の舌」が、ということ。

■ マールとダリーの関係に『ヴァインランド』の影を見たり、下p89のガス管通信からトライステロの残響を聞いてしまうのは、むしろ読んでる自分のほうがピンチョン作のパラノイア人物(ステンシルとかエディパとか)になってしまっているようで愉快。それが好きでピンチョン読んでる。

■ 最後。
《ロシア人は町に溶け込もうとしていたが、見え見えの手がかり――毛皮の帽子、ぼさぼさのあごひげ、町なかでいきなり彼らにしか聞こえない音楽に合わせてコサックダンスを踊り出す癖など――によって正体がすぐにばれた。》下p70

 もっと引用にふさわしい箇所は確実にあった。

…続き
2010/10/10

その7 /10月10日(日)  上巻P736-862

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ やっと上巻を読み終えた。862ページあった。原書は1巻本だから→これ。ちょう格好いい)、上下巻の区切りは「真ん中あたり」で事務的に切ったんだろうに、もろもろの期待を煽りに煽ったところで「下巻に続く」。お見事。
《しかし、それが意味するところは……興味をそそるその可能性がすぐ手の届きそうな場所にあるということなのではないのか……。》上p771

《まるでジブラルタル海峡が二つの世界の間の形而上学的な分岐点になったみたいに。》上p808

《最近は、厳密な意味での現実ってものが存在しなくてね。》上p829

地球の曲面のすぐ向こうにある夜から姿を現そうとしているのは何なのか?上p854

■ 大西洋の西と東でいろんな集団がいろんな思惑によりうごめいているらしい話がいちばん派手で(待ち合わせ場所はゲッティンゲン?)、でも、それより「上」で展開する〈不都号〉話が一足先に鍵になるっぽいのかな。
 いっぽう、鉱山の話はちょっと地味。いずれつながるんでしょうが。

■ 派手な話はまず登場人物が派手。国際的な悪事をもくろむケンブリッジ大教授とか、実数と虚数を経めぐる四元数の原理を自分の体で実演するヨガ数学者とか。驚異のはったり・与太話をどんどん重ねていく。
「やりすぎる」という書法。

■ 対して鉱山話は、父娘の確執とか血の復讐とか男女の力関係が逆転する瞬間だとかを凝縮リアリズムでじわじわ語っていく感じなんだが、忘れちゃいけないと思われるのは、こちらだって(派手話と同じで)やりすぎ書法でできている、ということ。本当だろうか。

■ とはいえ、より期待しちゃうのは派手な話の派手な展開で、注目される「別の世界」は、どうも期待以上に小説世界を撹乱する模様。
 ついていけるか不安だけど、しかし、「衣擦れの音を無化する消音フロックコート」なんかが出てくる話に不安を覚えるのは、根本的に間違ってる気もする。

■ 上巻の終わりが見え、読むのが加速してきたところで出てくるマヨネーズ講義には笑った。卵黄には意識があり、
《「マヨネーズには間違いなくサディスト的な側面がある。見逃しようがないわ」》上p845

 マスタードはまた別の話である。階級闘争談義もこれと同じ筆致として読みたい。
 そのごマヨネーズ工場がフューチャーされるあたりは、はっきり悪ノリだった。『逆光』は、V-2ロケットの工場ではなくマヨネーズ工場に忍び込む話だと言っておきたい。

■ 関係ないが、甥を男娼宿に案内した叔父の台詞が、「アヒルを水場に連れて行くような自然な感じだったよ(上p769)

■ 最後。
《直線的なメロディーは音の高低と時間の記録だから、メロディーを演奏するってことは時間という要素、ひいては死すべき運命という問題を音楽に導入することになる。それに対して、僕らウクレレ演奏者は弾いた和音の無時間性を手放すことを嫌がっている》上p855

 下巻に続く!

…続き
2010/10/07

その6 /10月7日(木)  上巻P618-736

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

《二人はタイムマシンの外見を見て、ことさら先進的という印象は受けなかった。耳障りで単調な鈍い音の中で、南北戦争以前のダイナモに取り付けられていてもおかしくないような不格好な電極の間を、青い火花が激しくにぎやかに飛び散っていた。》上p626

■ きのう読んだ部分との差は何なんだ。上巻p736まで。
 砂漠を進むサンダーバードふうの「潜砂フリゲート艦」とか、チープでくだらないもろもろが饒舌の雪崩に乗って次々押し寄せる。地下都市シャンバラ!あと「時間旅行会議」。楽しいなあ。

■ とにかく、〈時間〉が取扱注意なのはわかった。いっぽうで、荒野の大メロドラマも進行中。作中世界での〈不都号〉メンツのありかたは『ドン・キホーテ』の続篇のほうみたい?(てきとう)

■ 脱線はこれまでも山ほどあったけど、上p650あたりからの数ページは、列車がレールから逸れるというより、鯛焼きの餡が腹から「洩れちゃう」ようなはみ出しかたで、何が起きてるのか謎だった。
 でも本筋として回収できそうなくすぐりもある(ように見える)から、さらに謎スパイラル。
《あるいは、おれたち自身が何かの進化を遂げて、かつての自分たちの不完全な複製になってしまったのではないか?》上p656

 盛り上がってきたなあ。スパイラルといえば、竜巻と意思疎通を図ったりもした。あと巨大ノミとか。今日はずっとクスクスしてた。

■ 最後。文脈を無視して引くと、
《〈時間〉と〈空間〉について大いなるあいまいさが存在するその場所で何日もの時間が経過し、》

 このような文章があって笑った(上p690)
 それって、まるでこの『逆光』のことのようだと思ったので。

…続き
2010/10/06

その5 /10月6日(水)  上巻P523-617

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ このゴテゴテ感。
《巨大な機械の光の届かない奥底で、蒸気ハンマーが容赦なく未加工の氷塊を砕き、蒸気が立ち上り、氷と水と蒸気という三つの層の水が入り混じり、その中をくぐるようにして、カスタネットを両手に持ったウェイター長に指揮された氷娘たちがローラースケートでテーブルの間を周り、低温の固体で満たされた、店の名前入りの亜鉛めっきバケツを配っていた。》上p573

■ 上p617まで読んだ。
 鉱山関係の話(フランク)は、階段を三段飛ばしで上がるテンポながらノロノロしているという不思議な印象。ちょっと語りすぎじゃないだろうか。ダリーや〈不都号〉の面々、そしてヤシュミーンはどうしてるだろうか。

■ それにしても、たびたび感じ入るのはピンチョンの戦略的ご都合主義とでも言えそうな書き方で、たとえば上p554、潔いくらい都合のいい展開を、「都合いいですよ」と札を付けて提示する。こちらは「もう!」と笑って受けとめるので、結果、ご都合主義がヌケヌケと実現されることになる。
 ただのご都合主義ではないふりをしてほかならぬご都合主義を成立させる、かなりうまい手だと思う(私はきっとピンチョンに甘い)。

■ さらに『重力の虹』までだと、ご都合主義と、「これは陰謀かもしれないぞ」という疑惑を循環させる、手品みたいな書き方も使われていた記憶。

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2010/10/05

その4/10月5日(火)  上巻P359-522

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ きのうは読めなかったけど、今日は上p522まで。
 たとえばp453に出てきた人物の名前に見覚えがあり、人名その他を書き殴ってるノートをめくりかえして「ああ、あのときのあいつ!」と知る。こういうことも読書のうちだと考えてるので、メモをやめればもっと進むのにとは思いません。

■ 話は・・・進んだなあ。ずいぶん繋がってくるいっぽう、新要素も様々で、どんどん大きくなる。某一家の話はそれだけでも読ませるが、この小説では流れのひとつとして組み込まれ、なかなか結びつくように見えないほかの流れと触手を絡め合っている。

■ 「二つのバージョンの“アジア”」! 内田良平の〈黒龍会〉! 13世紀、1万人のインディアンは何を見たのか?
 何が大ネタで何が小ネタなんだか。しかしまだ1/4を越えたくらいなんだな。大勢が〈不可視〉だの〈別の存在〉に触れるし、〈時間の外〉がどうこう、とも。

■ 屋台骨になるはずの数学とか物理の話も出てきたが、私は「そういうのがあるんだなあ」程度で読み進めてしまう。
 それで面白いけど、怒られそうな気もする。知識があればより楽しめる(どこから嘘になってるかわかればもっと興奮できる)のはわかります。なくても楽しいと言いたかった。

■ そんなピンチョンが性的な方向に走ると、中学生男子の妄想と大差ないファンタジーを紡ぐことになっちゃうのはいったいなんなのか。
 本当は、歴史観とかについても同じようなことになっていないか考えるべきなのかもしれないが、ええと、脈絡のない引用を最後に。
《彼は自分の中に、泣こうとしている傷ついた少女がいるのを感じた―苦痛で泣くのではなく、さらに危害を加えようとする人物をなだめるために泣くのでもなく、貧者を見捨てる町の冬の通りに放り出されることを恐れるかのように泣くのだ。彼はずいぶん長い間泣いたことがなかった》上p500

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2010/10/03

その3 /10月3日(日)  上巻P183-358

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ ついうっかり、カバー折り返しのあらすじ紹介を見ちゃって先の展開を示され「んもう」という気持になったが、びっくりするほど、わがふり直せ。
 でもじっさい読みはじめると、先に知ってたあらすじなんか3行進むうちに忘れ去るので問題ない。

■ 上巻358ページまで読んだ。これまでばらばらに出てきた人物たちが少しずつ繋がったりして、エピソードの群れをまとめる流れが何本かうっすら見えてきたようにも思う。でもそれ以上に新キャラと与太話は増殖するいっぽう。まだまだ整理されない。されてほしくない。

■ 世界中で、電磁気的情報をめぐる小競り合いがあるとか。
《それは、地球を取り囲むことが既に明らかになっていた謎の数学的格子模様の各点における場の係数を最も正確に測定し地図化しようとする国際的な競争の結果だった。》上p185

 いっそすがすがしい。

■ ・・・北極では謎の物体(隕石?それとも?)が回収されたとか。
《「人間の形をした光はおまえたちを救ってはくれない」と、それは断言したらしい。「わが子供たちよ、昔も今も炎がおまえたちの運命だ」》上p221

 めっさ面白い。もっともっと。

■ 話のばらまかれかたは『重力の虹』に似てるのかなー。でも読みやすさは段違い。もしかすると、ネタの量はずっと多いのに『V.』より読みやすいかも。『V.』が若書き(26才で出版)というのも、『逆光』のエピソードのひとつにしていいくらい、無茶な話だが。

■ アフリカ植民地とか、ダイナマイトの爆発に「意識が共鳴する」人物とか、見覚えのあるようなモチーフも果敢に再利用されている印象。
「人間を越えた存在」みたいなものとして、(1)法人・国家の類と、(2)上位生命体・太古の神、の両方を並べちゃうのがピンチョンであるよな。

■ 数学も幽霊も外交問題もぼりぼりむさぼるみたいにして語るたくましい文体は、今回は自身の過去作だけでなく、いわゆる南米作家にも似てきているような。しかも、ネタの幅でも舞台が世界を股にかける点でも、より節操がないような。(※てきとうなことをつぶやいていますよ)

■ 今日読んだとこでは、クーパーがギターを弾くシーンがよかった(上p310あたり)。ダイナマイトと父子の話でハラハラ。「別の世界」の話もオカルト交霊会も出てきたので明日も楽しみだ。
 どんなことでも「やりすぎると笑える」の手法。それでもって何を目指すんでしょう。
《盗んだ箱から一、二本のダイナマイトを取り出して爆破させた。一つ一つの爆破が、新たな説教の前置きに使う聖句のようだった。彼の思考に対する監視をますます強めるようになった、顔のない無慈悲な砂漠の予言者が、雷のような声でその聖句を使って説教をするのだ。》上p329

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2010/10/02

その2 /10月2日(土)  上巻P72-182

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ 上巻p182で第一部が終わった。これで全体の1/10程度だから先は長い。だけどここまででも与太話に次ぐ与太話が繰り出され、あっちこっちむやみに面白い。文章は圧縮されてるのに題材の選びかたはひどくユルくて(=何でもあり)げらげら笑う箇所多数。

■ 飛行船〈不都号〉の話からどんどんスライドし、1人の人物の数年にわたる来歴を事細かに語ったかと思うと、そこに出てきた別の人物の話に移る(繰り返し)。さらにとつぜん俯瞰的な視点になって年単位の時間が過ぎたり、自在な動きをする。ついてくのが楽しい。

■ 気に入ったのは、機械工が農家の二階で球電とコンタクトする話(上p113)とか、〈不都号〉乗組員への面倒極まりない指令伝達法(養殖真珠を改良した光学的通信手段。日本人が開発)とかだけど、もちろん、鉱山主と労働者のダイナマイト闘争とか、愉快ならざる話も並行する。

■ 無政府主義者もたくさん出てくるけど、アナーキーさでは空洞地球説にとどめを刺す。当然のこととして書いてあるんだもん。
《しかし何かがおかしかった。「今回は針路の取り方が難しいな」》上p178

 何もかもおかしい。前から無茶を書く人だったが、今回はとくにタガが外れている感。

■ 『逆光』という題についてはまだ不明ながら、写真の話とかあったなあ(光に照らされると無に戻るとか、写真と錬金術は不活性な貴金属から光を救い出すとか)。
 光といえばエーテル信者の面々は抱腹絶倒だった。エーテルの不在こそがその存在を証明し、万物の基礎となるそうです。

■ 気になってるのは、「別の空間」「不可視の世界」なるものへの言及が頻発する点。
 これまでの作品でもそういう対象のほのめかしはあり、『V.』や『競売』に出てくる神聖文字的な形象をその暗示として拾ったりしたのが今作の訳者・木原善彦さんのピンチョン論の1ページだったけれども(この本。いま絶版でどうするの)、今作では、不可視の世界は現実の隣にしっかり口を開けて待っている予感。
 まあその現実にしてからが、節度を知らない与太話で構成されているわけですが。木を見て森を見ない私には、めっぽう楽しい読書です。

■ 今日、いいなあと思った一文。他にもたくさん。
《融解した石のような液状の曲線的な変形が加わった黒い嵐の雲が空を覆い、その合間から差す光は、暗い畑では失われているが白っぽい道路では輝きを集めていたので、ときには道路とその先の地平線しか目に見えなかった。》上p108

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2010/10/01

その1 /10月1日(金)  上巻P5-71

目次

■ こんな私ですが、僻地住まいを気遣って、『逆光』の上下巻をプレゼントしてくれた(!)友達がいることは自慢できる。超サンキュー。かくなるうえは、さっそく読みはじめたい。
atd

《西の空には深紅色の夕映えだけが残されていて、丸みを帯びたゴンドラの縁の上に出ている少年たちの頭の影とマイルズのシルエットとがそこに浮かび上がって見えた。》上p26

■ シリーズ化されてる少年少女空飛ぶ冒険物語のうちの1巻、みたいにしてはじまっていた。でもこの枠がきっちり保たれるだなんて思ってない。てか、何事かが「まとまる」とか、自分にも「わかる」期待なんかしません。人語を解す犬、が相当好きなんだなあ。
《夜の闇から巨大なビーフステーキが現れ、ゆっくりと回転しながら弧を描き、ほぼ正確にパグナックスの両前足の間の地面に落ちた。》上p32

■ こういう文章も好きです。
《「キスして」と彼女が言った。「一応、しきたりだから」
 それを聞いた他の少年たちが声を合わせて二人を冷やかしたが、そばかすだらけの彼女の頬が彼の唇の下で一瞬紅潮したことは、ダービーにとって挑発に耐える以上の価値があることだった。》上p33

■ いきなり山盛りの過去を背負って登場してくる人物、というのと、個々の文章の無茶な詰め込み、というピンチョン節。
 とにかく圧縮、アンド早口。そして濃縮還元の風景描写。
『ヴァインランド』にはかなり佐藤良明さんの文体が入ってるんだろうと思っていたけど、『逆光』もそれに似てるので面白い。つまりこれがピンチョンの文体だということ。

■ こういうの、しみじみしちゃう。
《飛行船の司令官のための心理的動揺隠蔽法に関する有益なシンポジウムにいくつか参加した経験を持つランドルフは》上p50

・・・こんなことしてたらますます先に進めないよ←→でもこんなにメモるの最初だけだよ

■ 時代は19世紀末。この小説内のニコラ・テスラは、地球ぜんたいを共振回路にして世界のどこでも電気を使えるようにする「世界システム」を構想している模様。それを無効化する逆変圧器も、《「理論上は、あまり大きな障害はなさそうですね」》(上p57)。なんでも可能なんですね。
 ※創作ではないそうです。ご参照

■ 飛行船を操る少年探偵団みたいな男子たちがシカゴ万博を訪れる話なんだが、
《「おまえたち――まさかおまえたちが物語の登場人物ってわけじゃないだろう?」彼は思い直して言った。「ひょっとしてそうなのか?」
[…] 「長い間雑誌に取り上げられている名前ほど、事実と虚構の見分けが付きにくくなるんですがね」》上p60

 好き放題だなあ。

■ 「カズー」の登場を確認(上p63)。そして、
《「錯乱[デリリウム]とは文字通りには畑の畝と畝の間の溝から鋤が外れるという意味だ」》上p67

 知ってるよ!それ『競売ナンバー49の叫び』で読んだよ! ピンチョン、ニヤニヤしながら書いていそうに思う。
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