趣味は引用
つぶやいて読む『逆光』

 10月のあたまから3週間くらいかかって、トマス・ピンチョンの『逆光』(2006)を読んでいました。新潮社「トマス・ピンチョン全小説」の第二弾。
 読んでいるあいだじゅう、ツイッターでえんえんつぶやき続けていた感想をここにまとめてみました。
上巻: その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7

下巻: その8 その9 その10 その11 その12 その13
      その14 その15 その16

びっくりするほど、内容の話をしていません。
紹介も考察も特になく、1回が140字の制限上、引用も控えめで(趣味なのに)、じゃあこれは何かといったら、つまり、日記でした。

★ なお、『逆光』を読んだ/読んでいる方には、訳者である木原善彦さんがツイッター上でおこなわれている“注釈”が無類に面白いはずです。
 1ページに1注釈で、現在進行形。 →こちら

『逆光』を読んでいなくても、この注釈を面白いと感じる方は、きっと『逆光』に(ピンチョン読書に)向いていると思います。


逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)
(2010/09)
トマス ピンチョン

商品詳細を見る

逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)
(2010/09)
トマス ピンチョン

商品詳細を見る
その16 /10月24日(日)  下巻P797-845

逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説) 逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ とうとう読み終えた。いやあ、うん。いやあ。

■ 最初は「すごい厚いけど、10日もあれば読めるだろ(おれピンチョン好きだし!)」と考えていたものの、実際には20日以上かかったのでびっくり。そして、もっとゆっくり読んだほうがよかったのかもと思ってる。

■ 読後感はきのう第四部を読み終えたときとあまり変わらないので(うわあ、と声が洩れる)、やはり長篇小説は、終わり方より途中途中の積み重ねがその姿を決めると思うことしきり。本作のような、一本のストーリーに収めない小説ではなおさらだ。

■ 上下巻で計1686ページは文句なく長篇だけど、詰め込まれてる材料は3000ページ分くらいあった印象。圧縮された大量のエピソードがあっちこっちで花開く様子が、最後半に比喩でもって俯瞰的に語られていた(下p792)。がまんできずに自分で言っちゃう感じがして、よかった。

■ 読みながら人名と出来事をメモしてただけなのに、3週間やってたら、ノートを1冊(30枚の薄いやつだけど)書き潰してしまった。貧乏性に発する、しかし贅沢な体験であると強弁したい。上巻・下巻に加えてもう1冊できたかのような。それは言い過ぎだ

■ せっかくなんで(貧乏性)、ノートから拾ってみる。
「何かの修業→超能力」 「名はスキップ、親友になる」 「料理の失敗を熱力学的にフォロー」 「13才で空中ブランコ乗りと結婚」 「町の基幹産業は魂の処理」 「容疑者22人!秘密組織!」 「セフィロトの入れ墨してるキリスト教徒」 「ビクトリア女王の本物は地下世界にいるのでは説」 「超自然的な白馬乗りこなす」 「墓参りで幽霊と話しちゃう」 「路上演劇、誘拐される(←白人奴隷シミュレーション)」 「2、3人を分離して元に戻せてない」 「ラクダ捕獲計画」 「雪崩は鉱山所有者協会だろう」 「移動サロンで温泉めぐり」 「2人、なぜか捕まる」 「オウムに説教される(複屈折・方解石)」 「二次元(地上)→三次元(空)、今度は四次元へ」 「結婚狂の治療で遅れた」 「だれかが、ついにシャンバラを発見したの?」 「時計は一方通行の時間を称揚する装置」 「のちのグルーチョ・マルクスである」 「巡回サーカスの跡地にできた集落」 「100着注文した男」 「まだ終わってないと〈運命〉が告げるので」 「トリエステ到着、“ここはどこ?”」 「〈侵入者〉に会ったという」 「〈時間〉の流れの中に生じた特異点が西フランドル」 「x+iyの虚数的二十面体」 「1660年頃、並像鏡で島から脱出」 「設計者エットーレ・サナンゾーロ」 「その場にとどまろうとする絵の具の慣性を乗り越える」 「モンドラゴン半自動小銃(タンピコ→チアパス)」 「氷州石:地球の速度を結晶化したもの」 「“中国の謎”をパノラマ投影する機械」 「アメリカの歴史はみんな宗教戦争」 「1人で声と伴奏できる(ホーメイの一種)、同時に二つになる方法」 「against the dayって書いてある! 」 「大聖堂で空中浮遊 改心?」 「阻止線=禁止線」 「“光”の暗号名」

 もうやめよう。

■ なにしろこれだけ長いのに、終わりそうになったらまだ終わらないでほしいと思ったくらいなので、しばらく『逆光』から出てこれそうにない。
 というのも、第四部から五部への繋ぎがなあ・・・いや、なんでもない。あれはずるいよ。いやいや、なんでもない。

■ 気に入った人物でいま思い浮かぶのは、リネット・ドーズと、「自分をベルリンの名物菓子だと信じてる男」(実際、焼きたての匂いがするという!)。
 そんな与太話の数かずを通じて、読者が勝手に想像することも作中に組み入れちゃっていいよ、という理路を開いてある小説・・・!!

■ キリがないんで(いまさら)ここで終わり。ひとまず、私は読んだ
 この上下巻を私にくれた友達には、ほんとありがとうでした。

(おわり)

atd2
その15 /10月23日(土)  下巻P673-795
逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

《それに触るたびに――軽く触っただけでも――声のようなものが聞こえるようになった。
「ここで何をやっているんだ?」とそれは言っているようだった。
「そんなことを聞くために家を離れてこんな遠いところまで来たのかい」》下pp675-6

《一人一人が空を飛ぶために必要な装置を黒い子ヤギ革とニッケル板で体に装着し、おでこには制御盤を見るための小さな電灯を着けた真面目な顔の少女たちは、再集結し、近づいてきた夜に向かって羽ばたいていった。》下p745

■ 下巻のp795まで読んで、第四部「逆光」が終わった。
 後半になるともう、「おいおいおい・・・!」と突っ込みたくなる展開が雪崩を打つ。興奮というより、笑って、それから感無量。
 残る最後の第五部は40ページ足らず。ここまで来ました。

■ 小説が進むにつれ増えたのは、「お、こいつ新キャラだ」とメモ→あとになって、他のことを確認するのにノートをパラパラ→さっきの人名を、ずっと前の別の場面でメモしてたのに目がとまる、というパターン。
 目がとまってもいいのにとまらなかった例も、きっと多くあったにちがいない。

■ これほど分量があり、複数の話が並行して、無数の人物が登場するんだから、「あの人間がここにも出てきた」的再登場は、気付けばうれしいけど気付かなくてもOK(、なので説明してもネタバレにあらず)と私は考えてきたんだけど、修正した方がいいかもしれない。面白いんだもの。

■ 最たる例。上巻p492で別れた二人が、千ページ以上を経過した下巻p683で、間接的・かつ一方的な“再会”を果たす(たぶん果たしてる)場面の奇妙な感激は、小説、それもこういう変な小説でしか味わえない感激だと思った。ひとことで言えば「なんかすげえ・・・」なんだけど。

■ そこから広げて、たとえば、空電の音(下p622)から『V.』を、切手談義(下p668)から『競売』を、下p738の「窓の外」から『重力の虹』を思い出すのにも、少しは意味がある気がする。でもこれは、「だから過去作読んどくべき」ではないので誤解なきよう。読者サービス?

■ 今作、「!」と思ったらあっちこっち読み返し、人物はなるべく見知っておくべきなのかなー(って、ものすごく普通のことだな)。
 自分的には下p679あたりから、何だろう、ある程度片付いたトランプの神経衰弱で、パパパパッとペアができていくかのような展開になるのがカタルシス。

■ ・・・そのカタルシスは、見方によってはもっと前から始まっていたとも言える。で、与太話につぐ与太話、たまにメロドラマ、演説、再び与太話、みたいな長篇を、第四部ラストでまたも与太話(ひみつ道具)で包み込もうとする姿勢と、包み切れなさが、「『逆光』らしさ」なのかも。

■ 何言ってるかさっぱりでしょう。私もです・・・って、まだ読み終えていないんだった。これからどうなるか、わからないんだけど知っている/知っているんだけどわからない。ああ、緊張してきたぞ・・・!
《カメラのためにほほ笑んでいるばかりでなく、声に出して何かを笑っていた――彼女が何に笑っていたのか、彼は思い出そうとしたが、思い出せなかった。ひょっとすると彼が彼女めがけて投げた雪玉が、目に見えない空中にとどまっていたのかもしれない。》下p794

…続き
その14 /10月21日(木)  下巻P619-672
逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次

■ 下p672まで読んだ。
《シプリアンは恐る恐る赤ん坊を受け取った。その軽さは彼の手に容易に収まり、彼の足の方が床から浮き上がりそうなほどだった。しかしそれだけではなく、彼は同じことを以前に何度も経験したことがあるような感覚を覚えた。》下p621
 これがほんとの新登場。

■ ページの上では確実に終わりに近づいているはずなので、いまさら○○が××して△△が□□になる、とか書くのはよした方がいいと思う。
 そう意図しなくても、何がどうなってるか“大筋”をまとめるには、って、イヤイヤ、こういうことを書くのもよした方がいいんだと思う。

■ 視界に収まらないほど大きなことじゃなく、たとえば下p654で懐かしい人物が現れ(まさか二度出るとは)、
《血族による復讐の標的となった人々が、自分の家に軟禁された状態に耐えられなくなり、一緒に村規模の住居を作ることにしたのだ》
というところに、下p161を重ねて笑ったり、
《リーフはかつて、北米分水嶺の西で最もツキのない釣り人として有名だったが、》下p656

この期におよんでそんな設定を出されても ――いや、前にもあったっけ? と探しに行って帰れなくなるなどしているが、それでも、今週中に読み終わると思う。・・・某所には到着するんだろうか。

…続き
その13 /10月20日(水)  下巻P513-619
逆光〈下〉 (トマス・ピンチョン全小説)

前回…] [目次
《言葉を超えたものに対するのろまで鉄面皮な免疫性の中で、彼は、自分の魂を救える可能性が万が一にもあるのかどうかを考え始めなければ――そして理解したことを記憶しなければ――ならなかった。》下p587

■ 思うように時間が取れずスローペースになってるけど、それでも、下p619まで来たからどきどきしてきた。
 人物再登場が甚だしく、机の上は読んでる下巻・自分のノートに加え、上巻も開きっぱなし。あっちこっちを楽しくのろのろ、森の中で迷っている。よくある比喩だがそんな感じ。

■ それにしても、この広がり方は何だろう。一応「主要登場人物」はいる。その人たちの話が脱線してく、というよりも、もっと話の絞られた「不在の本篇」があって、そこから派生した外伝・もしくは二次創作に類するような話も全部ひっくるめて「いまここにある本篇」をなしている、ような。

■ 「不在の本篇」を想定しちゃうのは、「それだったらもっと読みやすいのに」という気持のあらわれか。でも実際の本篇はこの上下巻なんだから、こっちに体を合わせるよ、もちろん。
(じじつ、この3日くらいでだいぶ慣れてきた。今の状態で最初から読み直すのがより理想に近いと思われる)

《それから彼らは列車に乗り、転轍機が一つまた一つと切り替えられた。それはまるで、自分がどれだけだまされたがっているか分からずにいる観客が、奇術師の誘導によって思い通りのカードを引かされているかのようだった。》下p609

 奇術師も、比喩だけでなくずいぶん出てきたなあ。

■ ピンチョン描くところの「魅力的な女性」は、たいてい放縦になっちゃう(性的な意味で)のが謎なんだが、放縦具合が図式的なためあまりエロくない。ここではアレとコレとソレを取り入れなくちゃ→ゆえにそうしてる、みたいな。それでいいのか。そして、これは女性だけの話じゃなかった。

■ 今日読んだなかでは、2度めのインディアンの遺跡ばなしが気になった。夢の中で出会った物語の中で、逃走中の共同体が集団的に夢見た都市。
 あと、いかにも重要アイテムな、「そこに描かれていることはすべて別の何かを表している地図」。明日も楽しそう。

■ 最後、スリープコート教授のバルカン半島・秘密の音楽探索の旅。
《彼が聞き分けられたのは若者だけが歌う権利を持った言葉だったので、彼は必然的に自身の過ぎ去った青春時代――気づかないうちに過ぎ去ってしまった青春時代――を思い出さずにはいられなかった。》下p614

…続き